■メダカを自殺させる ユーハプロルキス■
■Euhaplorchis californiensis■
~ ユーハプロルキス ~
今回の寄生生物は、吸虫の一種、ユーハプロルキス・カリフォルニエンシス (Euhaplorchis californiensis)。
レウコクロリディウム (閲覧:グロ大注意) とタイプ的には似た生活史を送る寄生虫です。レウコクロリディウムと似ている部分はさらっと流してみていきましょう。
ユーハプロルキスのスタート地点はレウコクロリディウムと同じく鳥、ここで卵を大量に生産し、鳥の糞に混ぜて鳥の体外に脱出させます。
まずはここが運の分かれ道、水辺に糞が落下しないとこの時点でユーハプロルキスの子供たちはアウト、糞は干からびて中の卵は全滅です。
見事水辺に落下した鳥の糞だけが次のステージに行くチャンスが与えられます。
次は吸虫御用達の巻貝の出番です。水辺に落下した鳥の糞は、巻貝の一種 (Cerithidea californica) に食べられるのを待ちます。他の巻貝、魚などに食べられると、やはりここでアウトです。
巻貝の体内に見事入り込むことが出来た卵はさっそく孵化し、尻尾が二またに分かれた泳ぐことが得意なケルカリア幼生となります。
レウコクロリディウムですと、ここで再度鳥に食べられてしまえばライフサイクル完了ですが、ユーハプロルキスはもう一段階、中間宿主を経なければなりません。
ケルカリア幼生は巻貝から毎日毎日大量に放出されますが、今度はカダヤシの一種、カリフォルニアカダヤシ (California killifish, Fundulus parvipinnis) の体内に侵入しなければいけません。
タイトルはイメージがわきやすいようにメダカと書きましたが、メダカではなくカダヤシです。カダヤシはメダカとまったく別種ですが、小型のものはメダカと姿が似ており、カリフォルニアカダヤシもでっかいメダカみたいなイメージだと思ってください。
おそらくケルカリアの寿命は1日程度と考えられますから、いくら泳ぎに適しているからだとはいえ遊泳力の弱いケルカリアにとって、これはかなり過酷な試練となります。
しかし、そのほとんどは無駄死にしてしまいますが、数で勝負のケルカリアです、運良くカダヤシにたどり着けるものもその中にはたくさんいます。
さああと一歩です。
~ カダヤシの自殺 ~
カダヤシに辿り着くまでもかなり大変ですが、そうはいっても水の中だけ、今度は空を舞う鳥の胃の中に移動するわけですから、かなり難易度が高いといえます。
ケルカリア幼生のように自分で泳ぎ回るといった、積極的な行動も取ることはできませんし、レウコクロリディウムが宿主 (カタツムリ) にするように、触角部分に大挙してネオンライトさながらに目立つ方法をとらせるのもまた難しいといわざるを得ません。
例えばカダヤシの体の一部をレウコクロリディウムがするように、とても目立つようにしたとしても、鳥が食べる前に他の大型の魚たちの餌食になるだけです。
方針を変えて、鳥に食べてもらうように、カダヤシを水から飛び出させ自殺させる、という手もあるかもしれません。
イルカやクジラをはじめ、砂浜に大挙して群れが座礁してしまう場合があります。
この方法で、カダヤシの感覚器官をいじくって岸辺にダイブさせ、鳥に食べてもらう、というのはどうでしょう?
しかし、これはあまり現実的な方法ではありません。岸と水面に段差があったりすれば飛び出ること自体難しいですし、運良く飛び出ても草むらに紛れ込んで鳥から見えなくなったりするかもしれません。
そういった行動を出来ないにもかかわらず、寄生されたカダヤシは非常に高確率で鳥に補食されていることが分かっています。
どんな寄生マジックを使っているのでしょう?
~ 40倍の食べられやすさ! ~
(カリフォルニアカダヤシ)
ユーハプロルキスに寄生されたカダヤシが、どうして鳥に食べられやすいのか?それを研究したのは生物学者ケヴィン・ラファーティと彼の生徒、キモ・モリスのふたりです。
カリフォルニアカダヤシはユーハプロルキスに寄生されているものと、そうでないものは見た目上、まったく区別がつかないといいます。
寄生されていても健康状態が損なわれるということもなく、特に動きが鈍くなっている、などといったこともないようです。
そこでキモ・モリスは寄生されたカリフォルニアカダヤシとそうでないものを水槽に分け何か違いがないものかにらめっこしました。
カリフォルニアカダヤシはジグザグに泳いだり、水面近くで腹を見せて泳いだり、水面に向かって突進したり、といった「不規則行動」をとることが分かりました。
この行動は明らかに鳥に狙われやすい行動です、しかし、これは寄生されていても、されてなくてもする行動で、特にこれが寄生されたカダヤシが食べられやすい原因とはいえません。
しかし、意外なことが分かりました、その頻度です。寄生されたカダヤシは、寄生されていないカダヤシに比べ、この不規則な動きを4倍多くすることが分かりました。
4倍不規則な動きをするのだから4倍食べられやすい?とんでもありません、4倍不規則な動きをするカダヤシの食べられる確率は30~40倍にまで跳ね上がっていたことが分かりました。ユーハプロルキスはカダヤシを自殺させていたのです。
どうしてでしょう?
まず考えられるのは、ラファーティとモリスが鳥には不規則に見える動きを見逃していたということが考えられます。鳥と人間の眼は異なりますし、鳥の獲物を見つける能力は凄まじいことも分かっています。
また、「不規則行動」と一色単にされていますが、そういった不規則行動の中でも「水面に向かって突進」などはもっとも目立ち、もっとも鳥の胃の中に収まる確率の高い行動のひとつとも考えられます。
それ故、不規則行動のそれぞれの動きについても、個別に増加数を検討しなければいけないかもしれません。
また、そういった不規則な動きをする魚は鳥にマークされやすいとも考えられます。
学校でも職場で構いません。朝礼や集会などで、他の人よりも4倍多くうなづく、4倍多くおしゃべりする、4倍多くあいさつをする、などなど奇異な行動をとってみましょう。壇上から見下ろした先生なり上司なり、彼らの目には他の人よりあなたが4倍どころではなく、とんでもなく目につくはずです。
鳥にしても、変な動きをしている魚が群れの中で、かつ「ある一定の場所を離れず泳いでいれば」他の魚より目につきやすくなるのは明白です。ただし、目立った行動をする場所が完全にランダムな場合、捕食される確率は4倍程度に落ち着くことでしょう。
その場合、そういった不規則的な動きは「見つけやすい」というだけではなくプラスαがあるとも考えられます。
鳥にとってそういった不規則的な動きを多くする魚は、弱っていることを意味している、つまり「捕まえやすい」というメッセージになっている可能性もあります。
実際の所、カダヤシの不規則行動とこの異常に食べられやすいという因果関係ははっきり証明されたものではありません。しかし、カダヤシの不規則行動が捕食されやすさに関係していることは間違いないでしょう。
ただひとつはっきりしているのは、ユーハプロルキスの水中から空中への一番難しそうな最後の旅路は、彼らの生活史の中でもっとも容易にやり遂げているということです。
<参照サイト・文献>
● New Scientist
● パラサイト・レックス (カール・ジンマー著)
<この記事のURL>
http://umafan.blog72.fc2.com/blog-entry-726.html
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不思議なのはこういった寄生虫の寄生サイクルはいつどこから始まったんでしょう?
これは想像ですが、これだけ緻密にもかかわらず、長い時間かかっていないのでは無いでしょうか?
こういう生物の生態や進化ってまだまだ未知の世界ですね 今からでも真剣に調査すれば世界的な学者になれるかも?
ちょと前のネタのアリに寄生してゾンビにする話を部下にしたら、驚いておりましたよ。
その時に人間のゾンビ化(生きてはいる)もできると書いてありましたが、本当なのですか?
違うか。
変わった生き物が好きで、頻繁に拝見させていただいてました

レウコじゃないですけど、南米産かな?のカタツムリを介して人の脳に寄生する寄生虫を以前、200X(にせん・えっくす)というTV番組で見た記憶があるんですけど、怖いけど(亡くなった方もいるそうです)面白いですね。
意図せずにシリーズ化ですね、寄生虫はブログを分けようかと思っているんですが、そんなに需要があるものかどうかと考えて、、、
研究は確かに他の目に見える生物と比較すると進んでいないというのは確かですが、研究者の黒を呼んだ限り、素人にはとても手を出せないグロい世界です。糞便を洗って探し出す、元気なカエルをペチャンとつぶして寄生虫を取り出すなど、僕には無理すぎる厳しい厳しい学問のようですね。
あーそれ、何を指しているかよく分からないですが吸虫ですよね、パラゴニムスかな?怖いですが、寄生虫のその生活史は興味深いですよね。
パラゴニムスと聞いて
ちょっと調べて(というほどでもないですが。wikipediaだし・・・)みました
多頭条虫という項の中で、六鉤幼虫というものが、中間宿主の脳や脊髄で育つ~とあり、なんだか記憶にあるイメージに近いものを感じたのですが、イヌやらキツネが宿主になるようなのです。寄生虫って特定の生き物の体内でしか生育できないんですよね・・・?
賑わってきてるので私も参加。
共生をもたらす寄生虫とかがいると好感が持てるんですが、
なかなかそんな関係はございませんねぇ。
怖いやつといえば脳みそに回る回虫とかかな。
宿られる場所によっては致命傷なのはやっぱり怖い。
後個人的にはカンディルが楽しいですね。
でも、寄生関係は遠巻きで見るからいいようなもので、
あにさきすにやられでもしたら
鳥肌物になる話ですよ (((゜д゜)))
この寄生生物ネタは毎回興味深く面白い話ばっかりなんですが、回を重ねるごとにだんだん地味になっていくのは気のせいでしょうか。いや、彼らにしてみれば必死なんでしょうが^^;
やはり一番インパクトが高かったのはカタツムリの目が「ビョーンビョーン」するアレですね。
4倍の異常行動で40倍の被捕食率ですか
ルアーで魚が釣れる理由がわかったような気がしますね
追伸 アニサキスはマジで痛いので気をつけて下さいね
そういったものの中には脳内に入り込んで食べちゃう寄生虫もいますからね。
カンディルは脊椎動物でありながら、寄生虫のような寄生生活を送るという点でかなり興味深い生き物ですね。本当はその伝説的な生態を聞いただけで恐ろしくなるんですけど(笑)
ですが、来月はちょっと興味深い寄生虫を紹介予定なのでこうご期待!とかあまり期待を持たせるのもどうかと思いますが。(笑)
レウコクロリディウムは生活史だけだと実はそれほど複雑ではないのですが、あの見た目のインパクトが凄いですからね、人気があるみたいです。
のほほんと生きている私には衝撃です!!
比べるのがおかしいって?!
おもしろい記事でした!!
そういう場合もあるんですね・・・!
教えていただき、ありがとうございましたm(__)m